台湾発!子どもの近視を減らすユニークな取り組みとは?
台湾の小学校では、屋外活動を通じて子どもの近視の発症を予防する取り組みが成果を上げています。近視は将来的に目の病気のリスクを高めるため、日本でも近視の子どもが多い現状を踏まえ、専門家は早期の予防対策の重要性を訴えています。
(※2024年5月20日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
目次
台湾 新北市立興穀小学校の屋外授業の取り組み
台北市近郊の新北市立興穀小学校では、休み時間になると校庭で遊ぶ児童のはしゃぐ声が響きます。授業のチャイムが鳴ると、児童たちは教室に戻らず、教員も一緒に校庭に出て、木陰で国語や算数の授業が始まります。
胡銘浚校長は「国語などの授業も屋外で行うよう奨励しています。休み時間の合計90分に授業を組み合わせ、1日120分の屋外活動を達成できるよう努めています」と話しています。
台湾の学童視力保健計画による近視予防の取り組み
台湾では1990年代、子どもの近視が問題となりました。日本の文部科学省に相当する教育部は1999年に「学童視力保健計画」を策定し、児童の視力悪化を防ぐために毎日120分間を屋外活動に充てる取り組みを続けてきました。
これまでの研究で、1日2時間、明るさ千ルクス以上の光を浴びると近視の発症を抑えられることが分かっています。一般的に屋内は500ルクス程度ですが、屋外では木陰でも数千ルクス、日なたでは数万ルクス以上の明るさがあります。
台湾 新北市立興穀小学校の近視抑制への取り組みとは
近視の多くは、眼軸長(目の長さ)が伸びることが原因です。太陽光には、眼球の伸びを抑える効果があるとされています。興穀小学校は、台湾の中でも特に積極的に近視の抑制に取り組んでいます。以前は5階建てだった校舎を2年前に3階建てに建て替え、児童が校庭に出やすくしました。教室横の外廊下は幅3メートル以上あり、外壁がないため、気軽に屋外授業ができるように設計されています。
また、ハード面だけでなく、休み時間には教室の照明を消し、児童が外に出るように促しています。保護者向けの説明会も開いており、読書やゲームなどを30分行ったら10分間は目を休ませる「3010運動」には家庭の協力が不可欠です。
同校では、2018年に全校で52%だった近視の児童の割合が、2023年には37.7%にまで下がりました。PTA会長の陳品榕さん(49)は「ゲームやスマホなど『目の敵』があふれていますが、きちんと対策を取れば効果は確実です」と話しています。
低年齢ほど進行が早い近視への各国の対策
子どもの近視は日本でも深刻な問題です。文部科学省の2022年度学校保健統計調査によると、裸眼視力が1.0未満の園児・児童生徒の割合は、幼稚園で24.95%、小学校で37.88%、中学校で61.23%、高校で71.56%となっています。子どもの目を守るにはどうすれば良いのでしょうか。東京都立広尾病院眼科医長の五十嵐多恵さんにお話を伺いました。
低年齢での近視発症が将来の目のリスクを高める
近視は将来的に目の病気のリスクを高めます。強度の近視の場合、緑内障のリスクが3倍、網膜剥離のリスクが13倍高くなります。近視は低年齢で発症するほど進行が早く、10歳以下で発症すると強度近視に至る可能性が高いため、低年齢での発症予防が重要です。
また、近業(ノートを取るなどの手元の作業)の時間が長くても、屋外活動時間が長ければ近視の発症を抑えられることが分かっています。
近視予防のための屋外活動導入の世界的な取り組み
近視の観点から学校に屋外活動を導入しているのは台湾だけではありません。シンガポールでは2001年に屋外活動推奨キャンペーンを始め、2004~2007年時点で小学生の近視有病率の減少に成功しました。中国も2019年に1日2時間の屋外活動時間を目標に掲げ、2018年からの2年間で若年層の近視が0.9%減少しました。
これらの国・地域では、近視進行を抑制する効果のある眼鏡などが利用されていますが、日本では多くの製品が未承認または保険適用外となっており、経済格差が目の健康に影響を及ぼしています。
さらに、コロナ禍を経てデジタル視聴の時間が増え、低年齢での近視発症が増加しています。幼稚園や保育園での取り組みが必要です。
虫歯予防の成功をモデルにした近視対策の重要性
1990年代まで、虫歯は約9割の子どもに見られましたが、予防指導の徹底と早期発見により、20年で約3分の1に減少しました。近視についても、適切な予防対策を整え、有効な治療を提供することが理想です。