クレームは「専用窓口」が対応。奈良県天理市の取り組みとは
先生は前面に立たせません。教員の休職や退職を防ぐため、奈良県天理市は、保護者対応を一手に引き受ける窓口を学校の外に設置します。これにより、教員は子どもたちと向き合うことに専念できるようになります。しかし、保護者にとって学校が遠い存在になってしまわないかが懸念されます。
(※2024年3月25日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
専用窓口で保護者対応を強化、天理市の新たな取り組み
「先生の指導に納得がいかない」「クラスで嫌がらせを受けている」という保護者からの要望や相談は、今年4月から公立の小中学校・幼稚園ではなく、新設された窓口「子育て応援・相談センター ~ほっとステーション~」で受け付けることになりました。
このセンターでは、校長・園長の経験者や相談員ら15人が、市教育委員会の指導主事や心理士とも連携して対応します。欠席などの連絡はこれまで通り学校に行いますが、「実は子どもが学校に行きたくないと言っている」といった話の展開次第ではセンターが対応します。
市教育委員会は、第三者の立場で双方の話を聞き、問題を整理することで、学校・園と保護者の間で「ボタンの掛け違いが生じる前に対処できる」と述べています。トラブルに発展している場合は、関係をつなぎ直すのが役割となります。学校や園に指導・助言することもあれば、保護者のカウンセリングや悩み相談にも対応します。
近年、学校現場における保護者対応の負担は課題となっており、東京都教育委員会のように、弁護士ら専門家を交えて解決策を学校側に助言する組織を設置する自治体もあります。天理市はこれを一歩進め、保護者対応の役割自体を「学校の外」に移すという特徴があります。
保護者対応の変化に戸惑う声、天理市の新たな取り組み
天理市によると、保護者対応が直接・間接的な原因で今年度に退職した公立小中学校教員は6人、休職した教員は8人に上りました。昨秋の教職員アンケート(回答120人)では、約8割が「日常業務での保護者対応に負担を感じている」と答えました。
「役割分担を再定義する。先生は矢面に立ちません、立たせません」と、並河健市長は昨年11月のセンター設立を表明した会見で宣言しました。センターが保護者と向き合うことで、教員には余裕が生まれ、どの子にもバランス良く対応できるようになり、「保護者の満足度も高められる」と述べました。
しかし、保護者側の受け止めは複雑です。市が同月に開いた説明会では、教員の負担軽減につながることへの理解はあった一方、センターを経由することで保護者の声が学校現場に届かなくなるのではないか、という戸惑いの声もありました。
市教委幹部は「学校の前に『ついたて』を立てるわけではない。センターが保護者と学校を結び直す」と強調しています。昨年12月に準備室を立ち上げ、実際の生徒間トラブルへの対応を試行しました。双方の保護者が相手側からの加害を主張し、教員が萎縮してしまっていた状況で、保護者側には心理士らが対応し、教員による生徒指導につなげることができたといいます。
保護者対応の問題に詳しい小野田正利・大阪大学名誉教授(教育制度学)は、「保護者対応はあくまで子どもたちのため。初動の段階ですぐに現場に入って、できるだけ中立に話を聞き、トラブルをいかに小さくしていくかを考えることが重要だ」と話しています。
教職員が経験した理不尽な保護者クレームの実例
(1)大掃除で「3月のまだ寒い時期に全員に教室の雑巾掛けをさせる意味がわからない」と1時間半にわたり詰め寄られた。
(2)子どもが家で壁を蹴って穴を開けたことを、「学校によるストレスだ」として家に呼び出された。
(3)前年度の先生の対応が不満で、3カ月間ほぼ毎日夜間に来校して大きな声で怒鳴られた。
(4)生徒同士の校外トラブルで「うちの子どもがおたくのクラスの生徒ににらまれた」と日付が変わるまで電話で怒鳴られた。
(5)子どもの下校時に教員が学校から家まで付き添うよう求められた。